エタノールは当たり前のように殺菌剤として使われていますがその理由を知っている方はそう多くはないと思います。ここでは、簡単な殺菌のメカニズムを紹介しておきます。
エタノールの殺菌効果は複数の理由が考えられています。
1、細胞膜の脂質を溶かし出します。
2、タンパク質の性質を変えてしまいます。タンパク質の構造を変化させて機能を失わ
せる効果があります。
3、脱水作用があります。エタノールは非常に揮発性が高い液体なので細胞内部に入る
とすぐに揮発して蒸発してしまいます。この時、細胞内部の他の液体もろとも蒸発す
るので細胞内部をからからに乾燥させてダメージを与えます。人間がエタノールを触
るとスーッとして冷たく感じるのは、人間の水分を蒸発させているからなのです。
エタノールは濃くても効果がありません。
市販品は70%濃度になっています。何故70%なのでしょうか。エタノールと水の重量比が7:3というのはモル比に換算すると1:1であり、溶液中ではエタノール1分子に対して水1分子という比率になっています。エタノールはC2H5OHという構造のうち、C2H5は疎水性であり、OHは親水性という疎水性・親水性の両方の性質を併せ持つ性質を持っています。しかし、C2H5は水とは相性が悪いのでエタノール分子の集合体が界面(表面)に配列します。(これはある種の界面活性剤として水をはじくものの撥水性を止めて、ものに張り付く作用を持ちます)余談ですが、洗濯洗剤は界面活性剤のおかげで水をはじくような生地にもしがみついて汚れを落とします。細胞膜は疎水性で炭化水素をはじく性質がありますが、界面活性剤的な働きによって、細胞膜に張り付いて中に入っていくことになります。
ですから、界面活性剤的な効果がない100%エタノール(無水エタノール)は、細胞膜に対する浸透効果が低い上に揮発性が非常に高く細菌はほとんど殺せないと考えられています。効果があるとしても細菌の表面のタンパク質を変化させる程度だと考えられます。また、100%エタノールの場合だと、細菌を殺せないばかりか人に害があります。基本的に表皮が防御してくれますが、強力な脱水作用のために肌がかさかさになってしまう可能性があるのです。ですから、あまり素手で触るのはお勧め出来ません。
細菌は殺せるのに人には無害なのはなぜか
まず、人の表面には細菌と同じように細胞がただ並んでるだけでなく、皮膚バリアがあります。一般的にいう皮膚は実は3層構造をしていてその一番外側にある表皮と呼ばれる層が外界から守ってくれています。表皮の外側は角質層と呼ばれるもので出来ていて、細菌やウィルス、その他の異物の進入を物理的にも化学的にも防いでくれています。またそれだけでなく、水分や保湿成分の喪失を防いでいるのです。表皮の表面は死んだ細胞の集まった平らな層で覆われ、この部分はケラチンという丈夫な線維質のタンパク質でできています。つまり、皮膚の表面は細胞ではないので、細菌と同じように死ぬということはないのです。
皮膚を守る細菌も死んでしまうのでは
ここは要注意点ですが、消毒用エタノールで皮膚を十分にアルコール消毒すると、一時的に無菌に近い状態になりますが、毛包管や汗腺などに潜んでいる常在菌(皮膚を守る菌)までには効果がないと考えられています。ですから、しばらくすると皮膚の奥に隠れていた菌が表皮に現れ、増殖していくことで元の状態に戻っていきます。
当たり前に使っている、殺菌剤にも隠された秘密があることが理解していただけたでしょうか。